primary TKAにおけるROMと “happiness” との関連、の論文
primary TKAにおけるROMと “happiness” との関連
J.D. Stephens et al. / The Journal of Arthroplasty 37 (2022) S105eS109
USA, OhioのStephens JD先生の論文です。
Journal of Arthroplastyより2021年にpublishされました。
<Background>
TKAのoutcomeを計測する方法は、たとえば靭帯StabilityやROMなどのObjective measuresからPROMsまで、外科医はTKA後の”success”を測るための最善の方法を決めることにevolveしている。
しかし、どのアウトカムを使用するか、についてはコンセンサスはない。20%の患者は不満足である、と報告されているが、理由はmultifactorialでclearlyにelucidatedされていない。
Knee ROMは患者の満足度やFunctional performanceに影響すると報告されている。
しかし、いくつかの報告ではROMの変化の程度が患者満足度の影響力のある因子であり、必ずしもROMの絶対値が獲得しなければならないわけではない。
一方で、他の報告ではKnee ROMは患者満足度に影響しない、という報告もある。
TKA後のアウトカムを計測する今までのスケールではADLの障害と関連していたが、患者満足度やQOLをFullyに評価することはできなかった。それゆえに、PROMsは注目を浴びている。
ある一定のROMはFunctional activityに必要だが、すべての患者は個々において達成すべきTarget ROMが存在する。
今回の研究では客観的Knee ROMとPatients Happiness with their ROM In the early postoperative period after primary TKAを調べた。
<Methods>
Retrospective study、対象は901患者(1008膝)。
術前、または術後に”Happy with their ROM”(HWROM)についての質問をされ、Yes or Noで解答。
術前には84%、術後は94%が解答し、両方解凍したのは802膝(80%)。
患者は6-12週で屈曲90°に満たない場合はManipulation under anesthesia(MUA)を受けた(医師、患者の判断で)。
ROMの記録は仰臥位で記録され、Maximal passive knee flexionがstudyに用いられた。
また、ROMだけでなく患者の年齢、性別、BMIなどの疫学情報を記録しました。
平均年齢66歳(日本より大幅に若いですね)、女性の割合が66%でした。
<結果>
平均して術前は110±16°、40%の患者がHWROMだった。
術後は平均して106±13°、76%がHWROMだった。
平均して-5±17°であり、術前より低下していた。
HWROMと答えたのは統計的にOlderの患者だった。
そしてよりBMIが高かった。しかし、Genderは相関しなかった。
HWROMの患者の術後ROMとROMの変化は109°、変化量は+2°だった。
NHWROMは98°、変化は-12°だった。
低い術前ROMの患者はHWROMに対してポジティブな変化をもたらしやすかった(f ratio = 41, P < .001) 。
同様に、術後ROMが高い患者の方が、HWROMをもたらしやすかった(f ratio = 6.7, P = .001)。
Table.1
Happy with ROMとNot Happy with ROMグループにおける、患者背景とばらつきについての比較
・年齢が高い方がHappy
・BMIが高い方がHappy
・術後ROMが低いとNot happy(当然か)
・男女差なし(少し意外)、左右差なし
Fig1には6週におけるROMとHappinessの関連についてのLogistic relationshipがある。
青色より上はHappyであり、下はNot happy
術前にHWROMと答えた患者は40%で、術後は76%だった。
両方においてHWROMと答えた患者のうちで43%はHWROMの改善を認め、50%は変化しなかった。
7%は増悪した。
平均のPost ROMとROM変化がTable2に記載あり。
Table 2によると、改善した群ではROMの改善を認めなかったがimprovedになっていた。
No change groupではROMは-8±14°悪くなっていた。
Worse groupでは-19±20°増悪していた。
(ROMがわずかなプラスまたは維持される程度であってもimproveしていた。)
7.2%(73 knees)でMUAsが行なわれた。
MUAを行った患者は術前ROMに違いは無かったが、術前のUnhappy with ROMの保有率がMUAを施行しなかった群と比較して有意に高かった(78% vs 60%; P = .003 ←前者がMUA施行群のunhappy解答率)。
Pre MUAを行った群での術後ROMはMUAを行った群と比較して有意に低かった(88 ± 13 degrees vs 107 ± 11 degrees, P < .001 )
さらに、MUAを施行した患者はNot happy with their ROMとなる確率が高かった(72% vs 28%, P < .001 )
これらの結果では、一方で、MUAを施行した患者のうち28%はMUA前にHappy with their ROMだった。
→MUAをしてもしなくても、変わらないのではないか?
<考察>
今回の研究のメインのoutcomeとして、
・TKA後6週において、ROMはOverall reductionを来していたが、Happy with their ROMの割合は増加していた。
・ROMとHappiness with ROMの関連は、直線的ではなかった。(Fig.1)
ということが挙げられる。
・他の研究でもROMはPatient satisfaction, PROMなどと相関するという報告も多い。
一方で、PROMSやfunctional scoresにおいて、115°得られた群と125°得られた群でno differenceだった研究(Meneghini et al.)や、high-flexion implantとstandard implantの比較で、high flexion implantでは7°の改善を認めていたにもかかわらず、患者満足度にはno effectであった研究(Thomson et al. BMC 2013)などが紹介されている。
・今回の研究では、患者はHWROMをhigh-flexion thresholdsを達していないで報告しており、このことは患者のHWROMにインパクトを与えるROMの程度には限界があり、そしてROMの変化は 享受するHWROMに対してより高いインパクトを与えるということを示唆している。
・ROMの小さいネガティブな変化はHWROMに直接の影響を与えなかった。
HWROMがno changeだった群では、平均してROMの少しの低下があった。
Miner et alは、患者満足度とQOLはoverall functional statusによりもたられ、knee ROMのみで決定する訳ではない、と報告した。同報告では、95°以上と95°以下の術後ROMの患者では、患者満足度において有意差が無かったと報告した。
今回の研究でもHWROMの患者さんの半数でno changeと報告していたが、ROMがfunctional tasksをperformするのに十分であれば、HWROMは保たれるのかもしれない。
しかし、Drastic reduction in ROMはHWROMの低下を引き起こしうる。
・MUAは術前ROMと関連しなかった。MUAを受けた患者では術前のUnhappiness with ROMが有意に多かった。術前のROMは術後ROMの予後因子である、と言える。
<結論>
・overall でknee ROMは低下していたにもかかわらず、HWROMの患者割合は術後6週において術前より多くなっていた。
術後knee ROMは、患者のHWROMと相関していた。
・しかし、HW ROMで改善を認めた患者において、ROMの有意な改善は認めなかった。
<論評、感想>
・この論文では他の論文で述べられているようなPROMやFunctional outcomesに着眼するのではなく、”Happy” or “not happy”に対して聞いていることが面白い。切り口をHappinessにすることで、我々が普段気にしているROMの些細なテクニック(例えば骨切り量や角度など)にのみ注視するのではなく、患者全体を俯瞰的に見られるようになる(気がする)。
また、術後にROMが改善しなくても、functional statusが保たれていれば概ねhappyであるという点も注目に値する。大事なのは絶対値でなく変化量であり、Change in ROMが大きく悪化しなければHWROMは保たれ、必ずしも絶対値を獲得しなければならない訳ではない。
結論にもある通り、Overall knee ROMは低下しているにもかかわらず、術前に40%のHWROMだった割合が術後に76%に改善している点も面白い。
・実際、私の普段の臨床経験的にはROMで不満足という患者さんは少ない。実際、不満の原因は痛み(AKP)が最多。
この論文を受けて、ROMの絶対値を得ることにこだわりすぎず、今まで通り適切なTKAを続けていけば良いという結論に至りました。ただ、術前のうちにROMが術前より悪くなることが多い点は説明しておくべきだろう。
・ちなみにTable 1でBMIが高い患者の方がHWROMが高いという点に関して、今まで(オペ的に)抵抗感のあったBMI高値も案外悪くないのだろう、と思うようになりました。